ヨハン・ペラトーネル 特集 3

作品作りや日々の暮らしにおける、ヨハン・ペラトーネル画伯のこだわりに迫ります。

私の作品はさまざまな都市へと通じる窓

数百時間の集中と情熱が生み出す唯一無二の作風

「世界にはまだまだ描きたい都市がたくさんあります」と目を輝かせるヨハン・ペラトーネル画伯。彼が追及するテーマは常に"大都市"です。彼の手にかかれば、林立する高層ビルや歴史的建造物、街路を満たす喧噪、窓の灯やネオンサインまで、大都市からあふれ出す膨大なエネルギーが一幅のパノラマとなり、新たな生命の鼓動を放ち始めます。

その作風を特徴づけるのは、いくつものレイヤー(層)を用いた技法です。さらに各所に散りばめられたラインストーンやスパンコール、ラメなどが作品に軽やかな輝きを与え、見る人の心をまるでテーマパークに足を踏み入れたときのような興奮で満たします。

あまりにも手の込んだ作品は、完成まで数百時間、ときには1000時間をも費やすほどの情熱と集中力の賜物。細かく積み重ねられた手作業に驚嘆しない人はいないでしょう。

ヨハンペラトーネル画伯は1986年、パリに生まれました。世界的に活躍する作曲家の父、兄弟たちも芸術関係の仕事に就く家庭環境で、幼少期から自然にアートに親しみながら育ちました。

6歳の頃には街の風景を盛んにスケッチしていたと言うほど、その才能は早くから開花。14歳の時にフランスの有名なカルトダール(Cartes d'artr)社の編集者が彼の作品に目をとめたことが契機となり、画伯はプロ活動への道を歩み始めます。さらに個人教授に指示してさまざまな表現方法や素材の扱い方を磨き、20歳を超えるころ本格的にプロとしてのスタートを切りました。

唯一無二といえるその作風は、有力ギャラリーの関係者にも評価されることとなり、ヨハン・ペラトーネルの名は一気に人々に知られるところとなっていきます。

デイ・イン・ドバイ/ヨハン・ペラトーネル
デイ・イン・ドバイ

大都市のエネルギーを伝えるため緻密な手作業に精魂を込める

作品のテーマとなってきたのは、パリ、ニューヨーク、ベイルート、ドバイ、シンガポール、そしてもちろん東京・・・と、欧米から中東、アジアへと広がりを見せてきました。また、同じ都市を異なる時間帯で描き分けているのもヨハン・ペラトーネル作品の見どころのひとつです。

例えば昼間のニューヨークを描いた「ニューヨーク・デイタイム」は、太陽光に満たされた公園や大通りの活気鮮やかな色彩の渦をなしているのに対し、夜を描いた「ニューヨーク・アット・ナイト」では、人工的に光に満ちた街路と摩天楼が輝き、同じ街の持つ個性が見事に表現されています。

ニュヨーク
ニューヨーク・デイタイム(左) と ニューヨーク・アットナイト(右)

一つ一つの作品に独特のリアリティとファンタスティックな雰囲気を与えるこの表現方法に基いて、画伯は「幼いころから自分を魅了してやまない大都市の立体感と色彩にあふれたエネルギーを、いかに細部まで緻密に表現するかを考え抜いた末に、この方法に至ったのです」と話しています。

何層にもレイヤーを重ね、さらにその上にラインスト−ンなどを細かく散りばめて行く作業には、気が遠くなるほどの根気と忍耐、そして情熱が必要です。しかしそれこそが、ヨハン・ペラトーネル作品の真骨頂なのです。

ヨハン・ペラトーネル/フィレンツェ・セーラ
フィレンツェ・セーラ

誰にも真似のできない世界はこうして作られている

ヨハン・ペラトーネル作品を味わうとき、そこに二つの鑑賞ポイントがあることに気付きます。

ひとつはテーマとして選んだ都市から画伯がどんなインスピレーションを獲得し、どのように作品に投影しようとしているのか。そしてもうひとつは、使用されるさまざまな素材がどのように選ばれ、あるべき場所に配されているのかと言うことです。

ありのままの都市の明確な様相からさまざまなモチーフを選び出すことについて、画伯はこのように語っています。

「私はそれぞれの街の明確な要素、例えばパリならエッフェル塔、ニューヨークならエンパイアステートビル、日本なら東京タワーなどを前面に押し出した構図が好きです。そこからさらに、その街を端的にそして本物より美しく表現するのに適した題材を探していくのです。」

そのためにその町のどこにどんな素晴らしい景観があるのかを探していくことに多くの時間を費やすのだと言う画伯。「自ら高いビルに上ることもあるし、ネットでもドローンで上空から撮影した色々な都市の映像をよく見ます。普段とは異なる視点から都市の姿を見てみると、そこには必ず新しい発見があるのです。 」

ヨハン・ペラトーネル/デイ・イン・イスラエル
デイ・イン・イスラエル

こうした入念な情報収集を経て作品に対するインスピレーションを獲得すると、いよいよ制作に取り掛かります。ひとつの作品に使用する材料は約300種類。さまざまな技法や素材を緻密に駆使したヨハン・ペラトーネル作品は、どのように生み出されていくのでしょうか。

作品作りはまず、パステル面などに使うキャンソン紙に鉛筆でデッサンをするというところから始まります。それが終わるとフエルトペンに持ち変え、白黒の下絵を描いていきます。

次にこの下絵をスキャンしてパソコンに取り込み、出力したものに水性ペンで色を付けていきます。これを再度スキャンして、パソコンで好きな色調に整えた後、バライタ紙と言う非常に強く劣化しにくい印画紙に4〜5層分を印刷。それをフォームコアという発砲ボードの上に層状に貼り付けていくのですが、建物一つひとつを小さなピースに切り分け、何層にも貼り重ねていくという気の遠くなるような作業の繰り返しです。空は絵画用のスプレーで採食してラメを塗った後、アクリル絵具でグラデーションを付けていきます。これは画伯が長い時間を掛けて編み出した技法です。

ヨハン・ペラトーネル/パリ・ソワレ
パリ・ソワレ

まず遠くから眺め、次第に近づ記ながら、細部まで味わってほしい

色彩は、視覚的にも楽しいポップな色を多様します。「見たままの色を使えば、写真のように実際の風景を切り取っただけのものになってしまいます。現実そのものをわざわざ描き出すことに私は魅力を感じません」と画伯。建物などに貼り重ねていくラインストーンやラメは、効果的に光を集めて反射させることで作品をキラキラと輝かせてくれるため、特にお気に入りの素材です。

それでも「決して今の状態に満足していない」というヨハン・ペラトーネル画伯。常に新しい技術を模索し、絶えずスタイルを進化させていくことにも貪欲な画伯が目指すのは、「作品を見る人とって、その街があたかも眼前にあるかのように感じられること」だと言います。

「観てくださる方が、私の作品を色々な街に通じる窓だと思って下さると嬉しいですね。作品の前で足を止めたら、ぜひ細かいところまで見てください。ラインストーンやスパンコールの輝きや効果は、光によっていかようにも変わっていくのです」

確かにヨハン・ペラトーネル作品を遠くから眺めると、まずはその装飾的な美しさに圧倒されますが、作品に近づいていくほど個々の街の中に入り込んでいくような気分になり、ビルや街路の隅々までを見て愉しむことが出来ます。

「私の作品で旅をしてください。そして私が描いた街を訪れたいと思ってもらえたらと願います」と画伯。「芸術は固定されたものと思われがちですが、私は生きている絵を作りたいのです。何十時間もかけてデッサンを繰り返すのもまさにそのため。皆さんに、またあの絵を観たいと思われるような、想像力を 掻き立てる作品を作り続けて行きたいと思っています」

ヨハン・ペラトーネル画伯


アートフェアで感じた思いが新作のインスピレーションに。
-2016ー

ニューヨークアートフェア

今回、私はニューヨークアートフェアに参加しました。このフェアはチェルシー地区の中でも特に規模の大きいギャラリーで開催されました。来場者の多くは、自宅のロフトの壁に飾る大きいサイズの絵を見に来ていました。こういう種類の展示会ではストリートアートポップがもてはやされます。
ひとつ気が付いた点と言えば、観客たちが色彩に溢れた3Dアートよりも、白と黒を基調にした作品に注目していました。人というのは時にポップより、少し地味ではあるがデザイン性のあるものを好みますから、そういうことなのでしょう。
今回はミッドタウンの小さなアパートに住まいを置き、主にお客様や各ギャラリーとの交流、展示会場で1日のほとんどの時間を費やしてきました。ニューヨークはたくさんの文化が入り乱れ、観客はアーティストたちと好んで議論を交わしていました。

ロンドンアートフェア

ロンドンで開催された"ロンドンアートフェア"では、ニューヨーク、ロンドン、そして香港がテーマの作品を展示しました。香港はかつてはイギリス領でしたから、ロンドンに住む香港出身者も多いのです。この期間はオックスフォードストリートの小さなアパートメントに滞在し、白と黒の作品シリーズを多く作りました。重要なコレクターとの出会いもありました。

新たな手法で

ニューヨークとロンドンは世界のアート業界の中心的役割を担っています。今回の作家たちの平均齢は50代だったため、新聞記者たちは私の若さにとても感心しており、私はそれにとても勇気づけられました。
現在は白黒を基調にした3Dアートに取り掛かっています。建物の内部や、建物の広告板などのスペース広告の代わりに、有名なストリートアーティストの絵や、グラフィックアーティストの中で特に知られているキース・へリングやバスキアの作品を入れていこうと思います。この手法はきっと気に入っていただけると思います。
そして新しい視点でニューヨークを眺めるために小型ドローンを借り、上空からの撮影も行ってみました。狙いは普段誰も観たことのないオリジナルの景色を具現化することです。